国破れて山河あり

「国は戦乱によってぼろぼろに破壊され尽くしたが、山や川はもとの姿のままでそこに存在している」という意味。
唐の詩人杜甫(712〜770)が46歳の時に詠んだ『春望』の最初の句である。
安史の乱で捕虜となった杜甫が、荒廃した長安の都の春の光景を眺めながらこの詩を詠んだという(757年)。
「國破れて 山河在り
 城春にして 草木深し...」と続く。以下全文。

春望しゅんぼう 杜 甫杜 甫

國破くにやぶれて 山河在さんがあ
城春しろはるにして 草木深そうもくふか
ときかんじて はなにもなみだそそ
わかれをうらんで とりにもこころおどろかす
峰火ほうか 三月さんげつつらなり
家書かしょ 萬金ばんきんあた
白頭掻はくとうかいて さらみじかし
べてしんに えざらんとほっ


<訳>
戦乱によって都長安は破壊しつくされたが、山や河は依然として変わらず存在し、城内(長安)には春が訪れ、草木が生い茂っている。
時世に悲しみを感じて、(平和な時は楽しむはずの)花を見ても涙を流し、家族との別れを恨めしく嘆いては、(心をなぐさめてくれる)鳥の鳴き声にすら、はっとして心を痛ませる。
戦いののろし火(戦火)は三か月の長きにわたり消えることなく、家族からの手紙は万金にも相当するほどに貴重なものに思われる。
心労で白髪になった頭を掻けば抜け落ち薄くなり、まったく簪(かんざし)をさすこともできないほどである。